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神戸地方裁判所 昭和40年(モ)46号 判決 1965年2月19日

申立人 更生会社光洋工業株式会社更生管財人 原田昭

被申立人 須賀工業株式会社

右代表者代表取締役 須賀豊治郎

被申立人 近畿電気工事株式会社

右代表者代表取締役 大森久司

被申立人 ワシオ厨理工業株式会社

右代表者代表取締役 鷲尾丁一

主文

一、更生会社光洋工業株式会社と各被申立人との間になされた昭和三九年八月一五日付の同更生会社が株式会社姫路観光交通会館に対して有する同会館六階主厨房および地下一階従業員食堂の厨房器具備付工事、衛生工事、電気工事一式の請負工事代金中、金一一四万円を被申立人須賀工業株式会社において、金二七万二〇〇〇円を同近畿電気工事株式会社において、金二五二万七〇〇〇円を同ワシオ厨理工業株式会社においてそれぞれ株式会社姫路観光交通会館から直接受領し得る旨および右被申立人ら以外受領し得ない旨の契約を、いずれも否認する。

二、被申立人ワシオ厨理工業株式会社は申立人に対し、金二〇〇万円を支払え。

三、申立費用は被申立人らの負担とする。

理由

(申立の要旨)

本件申立の趣旨は、主文同旨の裁判を求めるにあり、その理由とするところは、つぎのとおりである。

一、光洋工業株式会社は、昭和三九年六月一五日神戸地方裁判所に対し会社更生手続開始の申立をなし(同庁昭和三九年(ミ)第二号事件)、同年九月二八日同裁判所において更生手続開始の決定を受け、申立人がその管財人に選任された。

二、右更生会社は、同年二月二〇日ごろ株式会社姫路観光交通会館から同会館六階主厨房および地下一階従業員食堂の厨房器具備付工事、衛生工事、電気工事一式を請負い、同年八月一五日当時における請負工事代金は金四九〇万円であつたところ、同更生会社は会社更生手続開始の申立があつた後である同年八月一五日に、被申立人らの債権を確保する目的でいわゆる代理受領権取得の方式により、各被申立人との間に右請負工事代金中、被申立人須賀工業株式会社が金一一四万円を、同近畿電気工事株式会社が金二七万二〇〇〇円を、同ワシオ厨理工業株式会社が金二五二万七〇〇〇円を、それぞれ株式会社姫路観光交通会館から直接受領し得る旨および右被申立人ら以外受領し得ない旨の契約をいずれも締結した。右各契約は、更生手続開始の申立後になされた更生債権者等を害する行為または担保の供与に関する行為である。

そして、被申立人ワシオ厨理工業株式会社は、会社更生手続開始の申立後である同年八月一二日ごろ、同更生会社から器具代金として金二〇〇万円を受領している。被申立人らはいずれも右契約当時ならびに同ワシオ厨理工業株式会社においては右器具代金受領当時更生手続開始の申立のあつたことまたは更生債権者等を害する事実を知つていたものである。

三、よつて、申立人は、会社更生法第七八条第一項第二号に則り本件申立に及んだ次第である。

(疎明関係)≪省略≫

(当裁判所の判断)

一、光洋工業株式会社が昭和三九年六月一五日当裁判所に対し会社更生手続開始の申立をなし(当庁昭和三九年(ミ)第二号事件)、同年九月二八日当裁判所において更生手続開始の決定を受け、申立人がその管財人に選任されたことは、当裁判所に顕著な事実である。

二、そこで、右更生会社に申立人主張のごとき会社更生法第七八条第一項第二号所定の否認の対象となる行為が存するか否かについて判断する。

≪証拠省略≫によると、同更生会社は株式会社姫路観光交通会館から同会館六階主厨房および地下一階従業員食堂の厨房器具備付工事、衛生工事、電気工事一式を金八一六万三〇五六円で請負い、会社更生手続開始の申立後である昭和三九年八月一五日当時には右請負工事代金残額四九〇万円を有していたところ、被申立人らはいずれも同更生会社に対する債権者であつたが、同年六月一九日当裁判所によつて同更生会社に対し、同日以前の原因に基づいて生じた会社の金銭債務一切を(従業員との雇傭関係から生じたものを除く)弁済してはならない旨の保全処分がなされたので(この点は当裁判所に顕著な事実である)、なんとかして自己らの債権を確保しようと考え、同年八月一五日同更生会社と各被申立人との間において、「株式会社姫路観光交通会館から光洋工業株式会社に支払われる前記請負工事代金残額四九〇万円中、金一一四万円を被申立人須賀工業株式会社において、金二七万二〇〇〇円を同近畿電気工事株式会社において、金二五二万七〇〇〇円を同ワシオ厨理工業株式会社において、それぞれ工事完成後直接受取ることとする、右契約は双方の合意によらなければ解除もしくは変更することができず、被申立人ら以外において右各代金を受領することができない」旨の契約をそれぞれ締結し、これに基づき右の趣旨を記載した光洋工業株式会社を依頼人、被申立人らをそれぞれ受領人とする「株式会社姫路観光交通会館より光洋工業株式会社に支払される右工事代金残額金四九〇万円也のうち前記の各金額を工事完成後直接各被申立人に御支払下さいます様御願い致します。本願書は当事者間合意の上連署を以つて御届けしない限り解除若しくは変更致しません故指名人以外へは御支払なきよう御願い致します。」と記載した同日付の工事代金支払依頼書(疎甲第五ないし第七号証の各一)を作成したうえ、これに双方が連署して株式会社姫路観光交通会館に提出し、それぞれ同会館の承認の奥書を得たことが認められる。これによれば、右更生会社は被申立人らに対し、もつぱら同人らが前記の各請負工事代金を取立てこれを自己の債権の弁済に充当しうべき権能を取得せしめるとともに、合意解約の場合を除きその解除権を放棄したものというべく、他方同会館においてこれに協力すべき義務、すなわち被申立人らにのみ前記の各請負工事代金を交付すべき義務を被申立人らに対して負担したものと解するのが相当である。してみれば、同更生会社と被申立人らとの間になされた前記の各契約は、実質的には被申立人らに対し、前記の各請負工事代金債権の譲渡をなし、あるいは同代金債権に質権を設定したと同一の目的を達せしめるものであるから、右契約はいずれも更生手続開始の申立後になされた更生債権者等を害する行為というべきである。さらに前記認定事実からすれば、被申立人らは右契約当時、更生手続開始の申立があつたことまたは更生債権者等を害する事実を知つていたものと認めるのが相当である。

そして、≪証拠省略≫によれば、被申立人ワシオ厨理工業株式会社は、更生手続開始の申立があつたことを知りながら同年八月一五日、同年九月四日の二回に各金一〇〇万円づつ合計金二〇〇万円を同更生会社から器具代金として受領し、自己の債権の弁済に充当していることが認められる。

そうすると、右更生会社と各被申立人との間になされた前記の各契約および被申立人ワシオ厨理工業株式会社が同更生会社から金二〇〇万円を受領して自己の債権の弁済に充当した行為は、会社更生法第七八条第一項第二号によつて否認することができ、したがつてまた被申立人ワシオ厨理工業株式会社は申立人に対し、金二〇〇万円を支払うべき義務があるというべきである。

三、よつて、申立人の本件請求はすべて理由があるからこれを認容し、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を各適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 矢島好信 裁判官 松原直幹 辻忠雄)

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